鳥類への餌づけ問題

長谷川理 (エコ・ネットワーク)

私はもともと北海道大学で鳥類を対象に研究をしてきました。ですから、今日は鳥類に関する話を担当します。これまでの発表者がキタキツネやニホンザル、イノシシといった具体例を紹介されたのに対し、私は鳥類という大きな括りですので、大まかなレビューとして紹介したいと思います。

どのような場面で餌づけされているか

鳥類を例に、まず、どのような場で、どのような目的で給餌・餌づけされているか、4つに分けて紹介します。

一つ目は、希少種の保全・管理です。鳥類に限らず絶滅危惧種に対しては保全目的で餌を与えることがあります。代表的なのがタンチョウです。タンチョウは、一旦は絶滅したのではないかといわれていましたが、様々な保護活動、中でも冬期の人為的給餌により絶滅を免れ、個体数が回復しました。今でも越冬期は環境省事業として給餌が続けられています。タンチョウの給餌場には多くの観光客やカメラマンが訪れます(写真1)。柵が設けられているためタンチョウと直に接することはできないようになっています。観光客が餌を投げ与えることもできません。しかし、環境省が指定した給餌場以外でも餌やりが行なわれており、把握しきれていない個人的な餌やりもあるようです。他に、シマフクロウなどでも個体数を増加・回復させるための給餌が行なわれています。ハクチョウなどの水鳥へ餌を与える理由としても、野生動物保全という名目があげられる場合がありますが、保全面からの給餌の必要性が明確でないものも少なくありません。

次に環境教育・調査研究といった目的です。これ(写真2左下)は教育用の画像を提供するホームページサイトに掲載されていた写真で、餌台を訪れた鳥を撮影したものです。こうした教育用画像を撮影することも含め、子供たちに野鳥をゆっくり観察させるために餌台を置く場合があります。一般的に、学校の校庭や各家庭の庭先に設置される餌台などは、野鳥に関する普及啓発になると考えられているようです。こちら(写真2右上)はアメリカ・コーネル大学で行なわれている研究で、一般家庭の庭に設置されている餌台を対象にして、訪れた鳥類の種類や数をモニタリングするという活動です。このように、調査研究のための個体数カウントや行動観察にも餌やりが利用される場合があります。

三つ目に娯楽、趣味です。これらの写真は、公園や観光地でよく見られる餌づけシーンです(写真3、画像提供:中村眞樹子氏)。東京では公園の池にはカルガモが多いでしょうが、札幌では都市部にマガモが多く、不特定多数の人が餌を与えています。ハトやカラスなどに餌を与えて楽しむ人もいます。観光船からカモメにお菓子やパンを与えるという行為もあちこちで見かけます。それから、最近はデジタルカメラの低価格化・高機能化によって、鳥の写真を撮ることを趣味にする人が増えているようです。その中には、いい写真を取るために、餌を置いて多くの鳥を集めたり、できるだけ近くに寄せたりしようとする人もいます。これも趣味・娯楽の餌づけといえるでしょうが、鳥が好きだからゆっくり観察したいというよりは、とにかく撮影したいという目的のために、鳥や周辺環境への影響を考慮していない人も少なくないように思えます。

先ほど、バードテーブル(餌台)を野鳥のモニタリングに用いることがあるといいましたが、これも本来は娯楽の一つでしょう。日本でどのくらい個人の庭先に餌台が置かれているかは不明ですが、アメリカやイギリス、オーストラリアなどでは非常に盛んだそうです(図1)。ウォールストリートジャーナルによると、アメリカでは年間2.6億ドル、日本円にして数兆円にのぼる規模で庭先での餌づけが行なわれているそうです。英国や豪州では庭付きの家庭のうち2~3軒に1軒は餌台を出しているそうです。日本ではこれほどの餌台は置かれていないと思いますが、ガーデニングなども流行っていることから、庭に餌台を出す人も増えているようです。

四つ目は集客・商売です。公園のボート乗り場でカモ用のパンを売る、観光船でカモメ用のスナック菓子を売る。こうした営利目的によっても餌やり行為が促進されています。餌の販売自体を商売とするわけでなくとも、客寄せのために餌づけを行なう場合もあります。例えば、国内のいくつかの水族館では餌づけショーとして野生のウミネコに餌を与えて来場者に見せています。もちろんウミネコは水族館の飼育個体ではありません。野生個体群への影響などは考慮されていないでしょう。東北地方のあるローカル鉄道線に人をよぶためのイベントというのもあります。乗客に鉄橋の上から餌をまいて鳥を集めるという企画です。商売や集客というのは営利目的ですから、たとえ餌づけの問題点を説明しても、なかなか納得してくれない場合があります。そのような例として、北海道のウトナイ湖の事例を紹介します。

ウトナイ湖での餌づけ騒動

北海道苫小牧市にあるウトナイ湖は、国指定鳥獣保護区の特別地区およびラムサール条約登録湿地で、たくさんの観光客が訪れます。1960年頃から地元の団体により餌づけが始まりました。白鳥保護委員会なども設立され、調査や観察などとともに組織的に給餌に取り組んでいたようです。1981年からは、日本野鳥の会のウトナイ湖サンクチュアリが給餌を引き継いでいましたが、2002年 になって給餌は中止されています。野鳥の会による給餌の中止は、野鳥や生態系への影響を考慮したものだそうです。その後にも、湖岸の土地を所有する人が無人の餌箱を設置したりしたそうですが、環境省と苫小牧市からの要請によって中止されています。 この時は、北海道東部でオオハクチョウの死体から高病原性の鳥インフルエンザウィルスが検出されことを受けての措置だったようです。このようにウトナイ湖では給餌が行なわれたり、見直されたりしてきました。

2008年の10月になって、苫小牧市在住のある男性が、湖岸の駐車場付近に勝手に餌箱を置いて、餌の販売を始めました。この写真は2009年に湖岸に置かれていた餌、そして餌を与える観光客です(写真4)。この時すでに苫小牧市の担当部局が“野鳥とのふれあいに関するマナー”を看板に書いて設置していましたが、それは効果がなかったようです。男性が餌箱を置いていた場所は、すでに元の所有者から苫小牧市に譲渡されていたので、苫小牧市がこの男性に餌箱を撤去するように求めました。しかし、その後も男性は餌の販売を続けました。

2009 年10月にはすぐ近くに「道の駅」がオープンしたため、いっそう男性から餌を買って餌やりをする人も増えたようです。苫小牧市側も再三に渡って餌箱の撤去を申し入れたようですが、話はこじれて、逆に餌を売る規模を拡大していきます。途中からは鳥用の餌ではなく、鯉の餌だと主張して売ってみたり。観光客に向けた餌づけ自粛を求める注意看板も次々と立てられ、今では餌売りの男性のまわりは看板だらけになりました(写真5)。それでも未だに餌を売り続けています。

販売している男性は、こうした看板も意に介さないようで、ここに紹介している写真も、男性から快く撮影許可をもらいました。この男性曰く、「観光客がジャンクフードを与えるよりは、自分が売っている餌を与える方がハクチョウのためになる。自分はハクチョウの保護を目的として餌販売をしている。」とのことでした。

ウトナイ湖では、2010年1月 に湖岸でオオハクチョウの死亡個体が発見され、後日、パンを飲み込んだことによる窒息死と判明するなどの問題も生じていますが、こうした問題の解決には至っていません。

非意図的な餌の供給

続いて、鳥類に対する意図しない餌供給の例を紹介します。

まず一般廃棄物です。ゴミの中から餌を探す代表はカラスでしょう。日本各地の都市部や住宅街にハシブトガラスが進出したのは、必ずしも一般ゴミだけが要因とはいえませんが、餌資源になっていることは確かでしょう。少なくともカラスがゴミを散らかしたりすることで人間との軋轢が生じていることは多々あります。路上のゴミ置き場だけでなく、ゴミ集積場・処分場にも多くのカラスやトビが集まる場合があります。札幌近郊では、最近、カラスやトビだけでなくオオセグロカモメが集まるゴミ処分場もあります(写真6)。

次に農作物および田畑周辺に捨てられた農業残滓です。カラスをはじめとする鳥類も作物や農業残滓を餌にします。タンチョウなども酪農地帯に侵入し、農作物の残渣を食べたりします。

農作物だけでなく、魚もあります。漁港に捨てられた魚介類をカモメたちが食べる姿はよく見かけられますが、それ以外にも海ワシ類と呼ばれるオジロワシやオオワシも廃棄された魚を餌としていることがあります。人間が放流した魚も餌資源となります。これはカワウの糞が原因で木が枯れてしまった場所です(写真7、画像提供:高木憲太郎氏)。カワウは日本各地で増えています。カワウが増えた原因としてはいくつか考えられますが、その一つとして、漁業や保護活動の一環として放流されたアユなどの魚が、カワウの餌資源となっていることが考えられます。放流している人は漁業者にせよ保護団体にせよ、アユの個体数を増やすためにやっているのですが、放流された稚魚の大半は鳥にとっての餌になります。北海道ではサケを放流することが頻繁にあります。毎年、新聞記事にもなるように、自然再生あるいは環境教育の一環としても、サケの稚魚の放流活動が行なわれています。こうした放流事業の生態系へのインパクトはほとんど注目されることはありませんが、例えば数十万匹の魚を放流することは、ほぼそれだけの量の魚を餌として野生下に供給しているともみなせます。北海道ではアオサギなどの捕食者が放流されたサケを食べているのではないかと思いますが、どういう影響があるかは分かりません。あまり注目されることはありませんが、魚の放流が、その捕食者や他種の個体数の増減に影響している可能性はありそうです。

街路樹になる実なども人間が野鳥に提供している餌の一つといえます。ナナカマドという赤い実のなる樹は街路樹として人気があり、北海道ではたくさん植えられています。街路樹は、庭木と異なり道路沿いに連続して何本も植えられることが多く、この実を食べるムクドリやヒヨドリの餌供給源になっていると思われます。北海道からは多くの鳥が南方に渡っていき、冬にはいなくなる種が多いのですが、街路樹は雪を避ける休息場やねぐらにもなりますので、最近は札幌で越冬する個体も増えているといわれています。これらもまだ定量的なデータはほとんどありませんし、個体群に与えるインパクトがどの程度のものか分かりませんが、人間からの意図しない餌の供給が、野鳥の分布や行動を変化させているのかもしれません。

餌やりが野鳥の生存に与える影響

餌を与えるという行為が鳥類に与える影響を紹介します。大きく分けて、生存に与える影響、行動・生態に与える影響、生態系に与える影響があります。スライドでいくつか紹介していますが、これらは鳥類に限らず他の動物にも当てはまります。今回は特に鳥類に特徴的なものをとり挙げて話します。

まず餌を与えられた個体が何らかの健康を害するという例。本来は餌を与えられているのだから栄養状態がよくなって生存や繁殖にプラスになるはずです。しかし、逆にカラ類で繁殖成績が下がったという研究例もあります。よく、人間の与えたパンやスナック菓子で栄養が偏り、健康被害が生じるということがいわれますが、これに関しては実証報告はほとんどないようです。ハクチョウがパンを喉につまらせて死んだというような報告例はいくつかあります。感染症の拡大に餌づけが関わっていると思われる例はあります。野鳥の感染症としては、トリコモナスやポックスなどが知られています。北海道ではスズメの大量死の原因がサルモネラ菌だと推測されています。餌やりは、餌場に多くの個体を集中させることで感染拡大を助長したりすることがありうるでしょう。それから、人馴れも問題となり得ます。鳥の種類によっては人や人工物に馴れてしまう場合があり、人間に近寄ることで傷つけられたり、交通事故なども誘発されます。

行動・生態に与える影響

次に、餌やりが行動・生態に与える影響です。いくつかありますが、やはり繁殖に関わる行動に変化が生じることもあります。例えば、行動圏が狭くなったり、繁殖時期が早まったりします。

鳥類に見られる代表的な行動様式として「渡り」があります。渡りのルートや越冬地が決まっているという種もいますが、中には冬場の餌が少ない場合は温かい地方へ渡るものの、餌があればそれほど渡りをしなくなるというものもいます。ですから、餌やりという行為の有無は、この渡りという行動に影響を与えるといわれています。餌台が鳥類の渡り様式を変化させた例として、イギリスの事例があります。ズグロムシクイという鳥は、ヨーロッパに広く分布しているそうですが、ドイツで繁殖する個体群は、冬期にはスペインなどの南方に渡っていました。ところが、イギリスで餌台を好んで設置する人が増えたことから、かなりの餌供給源となっているようで、ドイツからイギリス方面へ渡る集団が生じたとのことです。その後、イギリスへ渡る個体群と南方へ渡る個体群との間に遺伝的分化が起こりつつあるという報告がでました。つまり人間の設置した餌台によって生物の種分化が引き起こされつつある、それほどの影響を与えているという事例です。日本でどのくらい餌台が置かれているかはよく分かりませんが、普及率はアメリカやイギリスなどと比べるとずっと低いと思います。ですから、現状ではさほど大きな影響があるようには思えません。ただし今後増加する可能性はあります。日本の場合は、庭で野鳥観察を楽しむ人が増えるというよりは、イギリス風のガーデニングのブームなどにともなって、庭作りの一環として餌台が設置されるような例が増えていきそうです。

こうした行動の変化がその種あるいは個体群の存続にまで影響があるかどうかは一概には断定できませんが、餌づけという行為が動物の行動や生態を大きく変化させる可能性があることには留意しておく必要があるでしょう。

生態系への影響

餌やりの影響が、餌を与えられた対象個体あるいは対象種以外にも及ぶ場合があります。ハクチョウのように綺麗とか可愛い思われる動物は依怙贔屓(えこひいき)されて餌を与えられます。しかしこうした対象種だけが数を増減させるわけでなく、それ以外の種にも影響が及ぶこともあります。例えば、マガモやカルガモに餌を与えると、そのヒナをカラスが食べることでカラスの個体数が増えてしまうというような場合です。このように、餌を与えられた種ではなく、その種の捕食者あるいは競争者である別の種にまで個体数の増減が生じる場合もあります。

先程の仲谷さんの話しでは、農作物は野生動物の餌量として非常に大きな量になるとのことでしたが、生態系への影響を考えるうえでは、どの程度の範囲に餌が投入され、どの程度の個体に影響を与えるかも重要なポイントでしょう。例えば、水鳥類には群れを作るものも多く、かなりの個体数が一所に集まります。そして、餌を与える場所が比較的小さな沼や池となると、面積あたりの餌の供給量は非常に多くなるので注意が必要です。

ハクチョウなどへの餌やりが原因でミヤコタナゴという魚の地域個体群が絶滅してしまった可能性があります。栃木県大田原市の羽田沼はミヤコタナゴの生息地保護区に指定されているのですが、平成7年度ごろからミヤコタナゴの確認数が減少し、平成13年度以降は生息が確認されていないそうです。羽田沼はハクチョウの飛来地ですが、ハクチョウなどの水鳥に給餌された餌の食べ残しや、増加した水鳥たちの糞が水質を悪化させたと考えられています。その後羽田沼では、関係団体が看板を設置するなどして、訪れる人に餌づけをしないようお願いしているとのことです。この写真は、北海道帯広市にある十勝池という池です(写真8、画像提供:池田亨嘉氏)。ここでも同じようにカモなどに与えられた餌が池を汚しました。写真中央のように、多くの人が餌を与えている場所では分からないのですが、大量に撒かれたパンは風下へと流され、この写真(右上・左上)のように大量のゴミとなって溜まりました。この後、アオコが大量発生したそうです。アオコの発生とパンの大量投与の直接的な関係は分かりませんが、パンの大量投与が水質に少なからぬ影響を与えたと推測されます。

空を飛べる水鳥と比較して、魚や水生動物は、沼や池といった閉じた場所に生息しています。ですから大量の餌が供給されるときに生態系に影響が生じやすいでしょう。しかしこうしたことは、沼や池だけで生じるわけではありません。空や海、陸上の生態系もつながっています。餌やりという人間の行為は、ときに目に見えないところにまで影響を与えている可能性があります。自分の目の前にいる動物だけでなく、地球環境や生態系への影響を考える必要があると思います。

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